小笠原の環境を守れ

      進む赤土流失や植生破壊

       都が野ヤギ捕獲大作戦

 小笠原諸島の父島をはじめ兄島、弟島、婿島の生態系が次々にむしばまれている。土壌流出まで招く野生化したヤギ…。人間が無造作に動物を放してきた“ツケ”が、いま、島々に環境破壊となってのしかかる。同諸島の北端にある聟(むこ)島列島の媒(なこうど)島は、青々とした海の上に毒々しい赤茶けた土をさらしていた。

 東京都は、小笠原諸島の無人島(媒(なこうど)島、婿島、西島、嫁島)の四島を対象に、野ヤギの駆除に乗り出した。

 植性の破壌と赤土流失が進み、景観破壊や周辺のサンゴ礁が死滅して、海洋生物と鳥類の繁殖にも影響を及ぼしている野ヤギは現在婿島で三百八十頭、ケータ島では七百十一頭が生息している。(東京都、小笠原村調べ)

 今回七月十日から十五日までの五日間に駆除を行った媒(なこうど)島は、面積わずか一・五平方キロ。明治時代は最高で十九人が住んだというが、今は無人島だ。

 約四百五十頭近くいる野ヤギ。捕獲のため小笠原支庁職員らが、しつらえた柵へ追い込もうと小高い丘の上から大きな声を上げながら、野ヤギを追い立てる。懸命になって逃げるヤギたちの走りから土をける音が聞こえてくるようだ。

 同島の破壊は、三年前にみた様子とガラリと変わってひどい荒れ方だ。枯れ木があちこちで倒れ、赤茶色の土が、島の全体にカビのように広がっている。ラテライトという南方特有の赤土。その面積は島の三割に及ぼうか。覆っていた草を、ヤギが根こそぎ食べ、雨で土が流れて裸地化した傷跡だ。

 海にも流れ込んで南側の湾を半分ほど埋めている。サンゴ礁にも影響が出ているというより、入江の湾の部分はほとんど全滅してしまった状態だ。

 透き通った海が濁り、赤茶けた土が赤潮のように漂う。「想像していた以上にひどい。こんな光景が日本にあるとは。ここまで土がむき出しになると、回復させるのに半世紀はかかる」。と東京農工大の丸山直樹助教授(54)(野生動物保護学)が声を強めて言う。 平成三年に環境庁の委託を受けて同島を調査した自然環境研究センターの常田(ときだ)邦彦主任研究員(42)も「濁っていただけの湾が、赤土で埋まっている」と驚きの声を上げた。 その常田さんたちの調査報告書によると、小笠原諸島では媒島のほかに聟島や嫁島など七島で約二千二百頭の野ヤギが生息している。東京都が先月行った調査では、媒島で当時百五十二頭のヤギが確認されていた野ヤギは、今回確認しただけでも四百数十頭にもおよび、その繁殖力は物凄い。

 幕末に来航したペリー艦隊が放したという話もあるが、それ以前に外国の捕鯨船が食料を補給するために置いていったというのが正確らしい。外国人が持ち込んだヤギは、日本の種とは違って、ヨーロッパの血を引いている。

 その七島で媒島の被害が最もひどい。報告によると、媒島ではウドノキの幹までヤギにかじられ、タコノキの葉が軒並み食べられている。木は立ち枯れ、赤土が露出した周囲では草もまばらだ。

 東京都建設局公園緑地部も、ようやく腰を上げ、今年度予算で千七百万円の予算をつけ、手初めに120頭を捕獲した。捕らわれたヤギは生体搬出され、沖縄、九州鹿児島の飼育業者に引き渡された。

 都は、今回の生体捕獲を足掛かりに、野ヤギの完全排除に乗り出す。小笠原支庁公園課によると、今後の予定として、媒島の植性復元(土砂の流失防止と草木の種子撒き)と同島に続いて婿島、西島、嫁島でモニタリングを実施する予定だという。

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